お前はあらゆる頂上の深さである

今日はお前を私が読むだろう、そしてお前は私のなかで生きるだろう

『あらゐけいいち全作品研究』第1巻ブックガイド:あらゐ作品入門編~上級編まで

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【この記事の目次】

 

あらゐけいいち全作品研究』第1巻、BOOTHより発売中です。

あらゐけいいち全作品研究』第1巻表紙

あらゐけいいち全作品研究』第1巻背表紙。全742ページ。

あらゐ先生の漫画を知る上で、この上ない出来になっていると自負しておりますので、興味のある方はぜひ。

 

以下この記事では、具体的にどのような情報を載せているのか、項目別にまとめています。本書の詳細をもっと知りたい方は参考してみてください。

 

 

入門編:あらゐ作品の根幹を支える要素の研究

絵柄のルーツを知りたい

あらゐ漫画・イラストの大きな特徴である、デフォルメ調の可愛らしい絵柄。この特徴的な筆致、少年少女やマスコットキャラクターの造形は、どのような作品から影響を受けて成立したのでしょうか。

本書では、幼少期から始まる「絵の嗜好」の遍歴を辿り、やがて先生が独自の画風を開花させるまでの過程を追っています。

 

〇該当する章

・「原体験⑴ 出生・小学生時代」よりP79~P95

・「やりたいことが多すぎる⑴ 高校生時代」よりP140~153

・「漫画道の方へ⑵ ホームページ開設・新興社就職」よりP208~P220

・「普遍にして不変の絵柄 ⑴  「アノニマス」」よりP415~P425

 

話の作り方を知りたい

あらゐ先生の漫画作品は、突拍子のないギャグや奇想天外な発想によって構成されています。こうした常人離れして見えるアイデアは、いかにして生み出されているのでしょうか。

先生の着想の仕方は、突き詰めていくと、きわめてシンプルでした。すなわち、己の感性を信じることと、漫画の技法を研究すること。

誰にでも容易に始められる二つの「正道」でもって、個性あふれる創作物が生まれていく様子を、先生の青年期の経験と合わせて紹介します。

 

〇該当する章

・「「なんか好き」という感覚にみちびかれて」よりP28~P49

・「漫画道の方へ⑵ ホームページ開設・新興社就職」よりP221~P236

 

『日常』の原型になった作品を知りたい

2004年8月。あらゐ先生は自主制作漫画「誉」を発表します。

これまで難解な実験作を描き進めてきた先生にとって、「誉」は一つの転換点となりました。三人組の少女がくだらないやりとりを繰り広げる本作は、後の『日常』の前身となるギャグ漫画だったからです。

並行して執筆を進めていたギャグ漫画『Helvetica Standard』(こちらも商業連載の前身)と合わせて、『日常』を発表するに当たっての足場が形作られていく様子を見ていきます。

 

〇該当する章

・「商業漫画への助走⑴「誉」」よりP533~553
・「商業漫画への助走⑵『Helvetica Standard』後期」よりP558~565

 

 

中級編:あらゐ作品を際立たせる個性の研究

唯一無二の世界観について知りたい

不条理にして能天気。現実から半歩ズレていて、底抜けに明るい。

あらゐ漫画の個性を決定づけている、唯一無二の世界観が形作られるきっかけは、幼少期の原体験にまで遡れます。

不可思議で明るい世界を志向する先生が、漫画の中に理想を実現しようとする過程を本書では紐解きました。

 

〇該当する章

・「原体験⑴ 出生・小学生時代」よりP54~P78

・「天使の見方から考える「幸せの角度」」よりP268~289

・「普遍にして不変の絵柄 ⑵ 「ふつう」」よりP431~438

 

「笑い」の方法論を知りたい

ギャグ漫画家として知られるあらゐ先生は、「笑い」の感性をどのようにして磨いてきたのでしょうか。その原点は、中学時代に受け止めた滑稽な作品群、そして雑誌や深夜ラジオへのハガキ投稿にありました。

本書では、『日常』や、その前身となる「誉」を生み出すに際しての試行錯誤を解き明かしていきます。

 

〇該当する章

・「原体験⑵ 中学生時代」よりP101~P122

・「漫画表現でふざける面白さ「隠風」」よりP327~331

・「空空寂寂たる創作物⑴『Helvetica Standard』前期」よりP445-455

・「知らない過去は新しい『Helvetica Standard』中期」よりP489~500

 

 

漫画家になる以前のあらゐ先生を知りたい

あらゐ先生が漫画家を本格的に目指し始めたのは、24歳(2002年)のこと。実はこれより以前、先生は漫画家とは別の夢を追いかけていました。

高校卒業後に志し、もしかしたら後の制作物にも影響を及ぼしたかもしれないあらゐ先生の来歴について、本書ではまとめました。

※インターネット上でしばしば囁かれている前職の「噂」についても、決着を付けています。

 

〇該当する章

・「やりたいことが多すぎる⑴ 高校生時代」よりP154~162
・「やりたいことが多すぎる⑵ 上京後」よりP167~P190

 

漫画創作への情熱を知りたい

あらゐ先生は本格的にペンを執ってから、わずか3年でプロの漫画家として頭角を現しました。28歳(2006年)にして4コマギャグ漫画『カゼマチ』でデビューし、ほどなくして『日常』を描き始めるからです。

この結果は、先生の才能もあったでしょうが、それ以上にひたむきな努力によって叶えられました。漫画執筆に情熱を注ぎ、己の面白いと思う事柄を貫いて創作に打ち込む姿は、読み手に勇気を与えることでしょう。

 

〇該当する章

・「夢の続きを自分の足で 総集編『細雪』」よりP399~P411

・「プロの漫画家と私の距離⑴「マイルストーン」」よりP568~599

・「プロの漫画家と私の距離⑵「開けっ!」」よりP606~638

 

 

上級編:あらゐ作品に通底する哲学思想の研究

哲学思想を学びたい:独我論/他我論

あらゐ先生は商業誌にデビューする以前(2003~2004年)、ギャグとは異なるジャンルの漫画に挑戦していました。同人誌即売会コミティアにて発表していた自主制作漫画は、難解にして抽象的な実験作だったのです。

現実離れした世界観と、哲学的主題、そして描き手自身の心理を混ぜ合わせることで成立した一連の作品は、「己哲学漫画」と呼ばれました。

本書では、この「己哲学漫画」の分析を進めていき、第一の主題として提示されている独我論/他我論について思索を深めていきます。

 

〇該当する章

・「精神世界と「己哲学」⑴「箱庭」」よりP299~P324

・「精神世界と「己哲学」⑵「はね」」よりP334~P365

 

哲学思想を学びたい:博愛

「己哲学漫画」の執筆を進め、独我論と他我論、自己認識と他者の存在について掘り下げたあらゐ先生は、その畢竟として「博愛」に辿り着きます。あらゆる他人を愛し、肯定する思想である博愛。それは、先生の哲学思想と、漫画において目指そうとする理想が落ちあう、居心地の良い世界でした。

ここで見出された博愛思想が、あらゐ作品の世界観を形作る決定打となり、『日常』以降の商業連載作品にも活きていることを、本書では辿っていきます。

 

〇該当する章

・「この世界に最大の愛をこめて「街」」よりP368~395

 

哲学思想を学びたい:空空寂寂

「己哲学漫画」を通して、博愛の思想に辿り着いたあらゐ先生は、次の自主制作漫画からは正反対の態度を取るようになります。すなわち、何も考えずに描くという方法論を、漫画を実作する上での基本として置いたのです。

感性の赴くまま、無心で筆を走らせる境地を、先生は仏教用語から借りて「空空寂寂」と呼びました。本書では、「己哲学漫画」に続く第二の実験作である「空空寂寂漫画」の分析を進めていきます。

この何も考えずに描いた作品は、やがて感性の赴くままにギャグを描く作風へと発展していくことになります。

 

〇該当する章

・「空空寂寂たる創作物⑴『Helvetica Standard』前期」よりP445~462

・「空空寂寂たる創作物⑵「こころ」」よりP467~P485

 

まとめ

あらゐけいいち先生は、紛れもなく「天才」です。しかし、重要なのは、ただ天才」なだけでは、『日常』もそれに続く作品も生み出せなかった、ということです。

それよりも、さまざまな物事や作品に感銘を受け、創作の糧として吸収し、試行錯誤を重ねながら実作に活かしていくことが、何よりも大切だったのでした。

結局のところ、優れた作品を生み出すには、一歩ずつ歩んでいくしかないことを、先生の漫画家に至る過程が教えてくれます。

 

誰にでも受け入れられる大衆性と、ほかの誰とも違って見える独自性を併せ持つあらゐけいいち作品の世界。

このような、汲み尽くすことのできない豊かな世界の案内書として、また豊かな世界を構想・創作する方法の実践書として、本書が参考になれば幸いです。

 

 

kumomajin.booth.pm

 

 

【ゆっくり解説】アニメ『日常』再評価の歴史:動画内の出典と註釈

【ゆっくり解説】アニメ『日常』再評価の歴史

www.youtube.com

こちらの動画で引用した画像の出典や、情報の註釈をまとめています。

 

 

 

 

サムネイル:アニメ『日常』オープニング内の一場面

ゆっこ・みお・麻衣がリズムを取って踊っているこの有名なショットは、『日常』前期OPの0:15~0:17から。担当されたアニメーターは佐藤達也さん。

 

 

00:00 『日常』の海外人気:イントロダクション

00:00~海外版『日常』15周年記念単行本ボックスセット

動画内で引用した画像は次のリンクから。

kodansha.us

https://www.animecornerstore.com/nibgrno.html

 

『日常』15周年記念ボックスセット(nichijou 15th anniversary box set)の収録内容は次の三点。興味がある方は購入してみてください。
①『日常』単行本10巻セット(英語)
あらゐけいいち描き下ろしボックスアート
③『日常』ポストカード(イラストは雑誌表紙絵の再録)

 

00:20~漫画『日常』単行本1巻・10巻、あらゐ先生の自画像

単行本表紙は1巻・10巻から。

あらゐ先生の自画像はツイッターアイコンから。

あらゐけいいち (@himaraya) | Twitter

 

00:26~『月刊少年エース』表紙絵

左は『日常』10巻収録「日常の192」(雑誌での最終回)が掲載された2015年12月号、

右は『日常』の連載復帰回「日常の193~195」が掲載された2021年12月号から。

ちなみに『日常』連載開始は2006年12月号からなので、周年で揃っていることが分かります。

 

00:40~Eテレホームページ内に特設された『日常』紹介ページ

web.archive.org

 

00:52~アニメ『日常』本編内の一カット

右上:第二話「日常の6」

左上:第二話「日常の5」

右下:第二話「日常の8」

左下:第五話「日常の20」

 

01:02~アニメ『日常』本編内の一カット

第十四話「日常の58」

 

01:18~アニメ『日常』本編内の一カット

右:第十三話「(タイトルなし※「エデン」の後に置かれた最後のエピソード))」

左:第二十五話「日常の109」

 

01:38~海外版『日常』15周年記念単行本ボックスセット販売告知

ボックスセットの発売元がKodanshaになっていて一瞬戸惑いますが、これは、『日常』版権がKADOKAWAから移動したというわけではなく、米国での販売元を講談社現地法人Koansha USに委託しているだけのようです。

 

 

02:05 『日常』の海外人気:英語圏のアニメランキングから

02:10~「My Anime List」

引用したバナーは「about」のページより。

myanimelist.net

月刊PV数2億7千万のソースは以下の記事から。

mediado.jp

月間利用者数1,800万人、月間ページビュー数2億7,000万PV、世界230ヵ国以上のユーザーが利用する世界最大級の日本アニメ・マンガのコミュニティ&データベースです。2005年に誕生し、開設以来23万件を超える日本のアニメ・マンガに関する情報や口コミ、ランキング等がユーザーにより投稿され、海外ファンにとって重要な情報の入手経路となっています。また、彼らのアニメ視聴、マンガ購読のリスト管理のために、なくてはならないサイトとして支持されています。

 

なお、「My Anime List」のランキング高順位の作品が名作なのは間違いありませんが、高順位でない作品が決して駄作というわけではありません。

動画内でも触れていますが、間違っても低評価値だからといって落胆したり、駄作認定をして回ったりしないようにお願いします。

あくまで参考程度に。

 

02:22~「My Anime List」内『日常』ページ

myanimelist.net

 

02:32~「My Anime List」内『日常』評価値グラフ

グラフは著者が作成。縦軸の数値は、My Anime List内で評価値が付与されている各アニメの合計値(12500作品)。作品集計については、2022/4/20時点でのランキングにて、概算を取りました。

動画内で示した通り、『日常』の評価値はトップクラスに高く、グラフの赤い部分の層に属しています。

 

02:53~「My Anime List」ユーザー評価ランキングの補足

この記事を書いている2022/05/03時点でのランキングトップは『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』(score9.14)、次点が今期放送の『SPY×FAMILY』でした(score9.09)。

ただ、直近で放映されている作品はランキングの変動幅が大きく、この先評価値を維持し続けるかどうかは分かりません。『SPY×FAMILY』が優れた作品なのは間違いありませんが、動画内では敢えて言及しませんでした。

 

03:07~「Forbes.com」にて『日常』が言及されているページ

「Forbes」ロゴは下記サイトから。

Forbes com Vector Logo - Download Free SVG Icon | Worldvectorlogo

『日常』が紹介されているのは「The Best Anime Of The Decade - 2010 And 2011」。

動画内で紹介した通り、2011年を代表するアニメ5選の中に『日常』が選ばれています。

www.forbes.com

Absurdities abound in this bizarre slice of life comedy. Ostensibly about three high school girls, it's a wild ride through extraordinary events in ordinary settings. From a pint-sized professor and the robot caretaker she surreptitiously designed to store snacks, to a handsome upperclassman who rides a goat to school, our protagonists encounter one odd situation after another through a series of comedic sketches. But no matter how off the wall the story gets, its dedication to the realistically awkward teen girls who must navigate it gives it heart.

 

03:26~「Crunchyroll」/「paste magazine」にて『日常』が言及されているページ

『日常』が紹介されている記事は「Crunchyroll Editorial's Top 100 Anime of the Decade: 25-1」「paste The 30 Best Anime Series of All Time」

web.archive.org

Everyone loves a relatable slice-of-life series… but these girls’ days are anything but ordinary. Nichijou appears on the surface to be a standard relatable-situations series. Once you’re past the peppy vocals of Nico Nico legend Hyadain, though, anything goes. There’s a tiny mad scientist and her clockwork robot. There’s schoolgirls suplexing each other and quoting Urashiman. There’s a guy who rides a goat. All this, paired with its charming art style, makes it impossible to look away.    – Kara Dennison

www.pastemagazine.com

Based on Keiichi Arawi’s manga of the same name, Nichijou excels in hyperbolic depiction of everyday life. Largely an absurdist take of the slice-of-life genre, which reached critical mass around its inception in 2011, Nichijou turns familiar tropes into devastating punchlines. Along with superb animation courtesy of Kyoto Animation, Nichijou’s irreverence is ultimately dedicated to the awkward avenues teen girls travel on their way to adulthood, and often the fear of pointing out life’s most insane moments that comes along with burgeoning public self-image. It’s a fun juxtaposition that follows up on the legacy of Azumanga Daioh and continues to influence animated comedy to this day. —Austin Jones

 

 

03:36 『日常』の海外人気:英語圏の二次創作から

03:49~海外ファンによる合同誌(Fanzine)"DAY DREAMS"(2015)

tumblrの作品紹介ページから、冊子に収録されていたファンアートを閲覧することができます。

https://nichijouzine.tumblr.com/post/136568719198/wuzidan-my-submission-for-day-dreams-a

nichijouzine.tumblr.com

主催者はアーティストのRebecca Shieh氏。

作品紹介ページはこちら(現在は販売終了済)

 

03:52~手描きMAD「Procrastination」(2021)

アニメ『じょしらく!』(2012)のED映像を『日常』のキャラクターに差し替えた手描きMAD。

YouTube再生回数は2022/05/03時点で854万回、作者は香港のアーティスト・Pear氏。

じょしらく』EDに用いられた「ニッポン笑顔百景」は作詞・作曲が前山田健一ヒャダイン)なので、楽曲提供者繋がりから『日常』キャラクターを描いたのかもしれません。

www.youtube.com

 

03:57~海外のグラフィティ・アーティストの描いた『日常』キャラクター

Instagramより、作者アカウントは@creative_mad_one。

 
 
 
 
 
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ちなみに、動画内では紹介しませんでしたが、スペイン・マドリード周辺では、『日常』から阪本さんのストリートアートが発見されています。

r/Nichijou - Spotted in Northern Madrid!

www.google.com

 

 

03:59~[『日常』の大型合同同人誌「DUNGEONS & FRIENDS」(2021)

販売ページはこちら(現在は取り扱い終了)

dungeonsandfriends.carrd.co

実際の冊子はこんな感じ。

 

動画内で引用した画像はツイッターアカウント(@NichiZine_RPG)より。

ちなみにツイッターは現在も活発に動いていて、『日常』ファンによる二次創作を発信したり、リツイートしたりしてくれています。現在どんな『日常』ファンアートが描かれている知りたい方におすすめ。

 

04:10~手描き動画「nichijou reanimated」(2022)

EDのスタッフロールが圧巻です。

www.youtube.com

 

第一話の音声を丸ごと使用している関係で、youtube上では公開停止になっていたのですが2022/5/3時点では復活していました。

権利関係的にはグレーな作品ですが、それでも大勢の人が関わった労作という評価には変わりないと思います。

 

04:22~ニコニコ動画「日常MADリンク」タグのアーカイブ
動画内で紹介した通り、『日常』の放映から10日間(2011/4/14)で、100件以上のMADが投稿されています。

web.archive.org

そして半年後(2011/09/25)には、1200件以上のMADが投稿されていました。

web.archive.org

 

 

 

04:30『日常』の海外人気:ヒットした理由の考察

04:44~『月刊少年エース』2021年12月号(『日常』連載再開号)が品薄状態に

「品薄状態」云々は筆者の経験に即していますが、他の箇所でも起こっていたことがいくつかの証言から確かめられます。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

twitter.com

使用した画像(「日常の193」冒頭)は下記リンクより。


05:00~アニメ『日常』はEテレを観ていた当時の子供世代だけでなく、動画配信サイトを経由して現在の子供世代に視聴されている

引用した画像は下記リンク。

www.amazon.co.jp

 

動画配信サイトにて子供世代に視聴されている話のソースは、たとえば次の二つ。実例は探せばもっとたくさん出てくるかも。

togetter.com

 

05:12~『日常』はビジュアルからしておかしいので海外層も面白く感じやすい?

英語版『日常』=『nichijou』vol.1(Vertical Comics, 2016)を撮影して転載。

ページ数は動画内にも掲載した通りP176, 146, 69。

 

05:22~京都アニメーションの作画と音楽

背景に使用したのは『日常』前期OP映像の冒頭(0:01)と、第十七話「日常の69」。

 

05:44~英語吹き替え版BD

英語吹き替え版BD『Nichijou: My Ordinary Life- The Complete Series』パッケージイラストより。

https://www.amazon.co.jp/Nichijou-Ordinary-Life-Complete-Blu-ray/dp/B07QLB7TWX

 

06:00~「reddit」での『日常』の話題数( metrics)

グラフの出典はこちらのサイトから。

frontpagemetrics.com

 

動画内では2017年以降のデータに絞っていますが、サイトでは2012年からの話題数を確認できます。『日常』英語吹き替えBDの発売が大きな衝撃を海外層に与えたことが、改めて窺い知れると思います。

 

なお、このデータを見る限り、2021年以降の話題数は『日常』再連載の発表直後がピークで、2022年に入ってからは話題数は落ち着いてきているようです。

ただこの原因は、海外勢が雑誌連載の『日常』を追いかけることが難しい(海外向けの翻訳も単行本発売もまだである)からなのでしょう。

 

 

 

06:27『日常』の海外人気:幅広い世代に浸透した末に、海外層にも届いた

06:28~昭和世代向けネタ

キン肉マン』ネタ…『日常』1巻3ページ

まんが道』ネタ…『日常』1巻118ページ

『櫻画報』ネタ…『日常』1巻149ページ

 

06:40~『日常』単行本1巻の発売(2007年)直後に書評を掲載した雑誌

ばるぼら「WAM BOOK 私のハマった3冊」(「週刊アスキー」2007年9月25日号、アスキー

吉田大助「マンガだからこそ表現できる“笑い”がみっしり詰まった傑作!」(『SPA!』2007年11月27日号、扶桑社)

宮昌太朗「ギャグのトビ方が凄まじい!」(『STUDIO VOICE』2007年11月号、INFASパブリケーションズ

ばるぼら「萌え×不条理ギャグ×ドリフ×アスキー文化」(『Quick Japan』vol.75、太田出版

 

ちなみに、あらゐ先生への単独取材を最初に敢行したのも、サブカルチャー雑誌『STUDIO VOICE』2007年12月号でした。(「あらゐけいいち 桁外れの異次元的創造力!」)

 

 

 

07:23『日常』の国内評価:イントロダクション

07:27~アニメ『日常』を配信している動画サイト

ここではHuluのサムネイル画像を引用しています。

www.hulu.jp

 

07:44~PC画面の前で落ち込む教頭

『日常』第十一話「日常の45」より

 

08:05~『日常』は特定の数字に着目すると「売れなかった」という典拠

wikipedia『日常(漫画)』内には、次のような記述があります。2022/5/3閲覧。

ja.wikipedia.org

 

その典拠として挙げられているのは、『4gamer.net』掲載の前山田健一田中公平の対談記事。「田中公平氏とヒャダインこと前山田健一氏の対談が実現。前山田氏が「このままじゃ大丈夫じゃないことが分かりました」と語った訳は……?」

www.4gamer.net

4Gamer
 DVDやBlu-rayが売れる作品と,テレビで見ればいい作品って,本来は別の軸で評価していいものだと思うんですが,パッケージが売れるものが圧倒的に正しいみたいな雰囲気はありますね。

田中氏:
 「日常」も面白かったのに,パッケージでは売れなかったですし。

4Gamer
 NHKでも放送されるなど,別の形の広がり方は見せたんですけど。
 結局,作品のジャンルや特性ごとに, パッケージの販売というだけではなく,適切な売り方を考える必要があるということなのかもしれません。

 

田中氏は作曲家として著名とはいえ、『日常』の制作には関わっていないため、典拠としては弱いように思われます。

ですが、公式サイドが「売れなかった」などと明言するはずがありませんし、一般ネットユーザーの発言はより根拠を欠きます。

wikipediaでは、「アニメ業界人」かつ「『日常』に肯定的な評価を寄せている」田中氏の言葉を、角の立たない折衷案として典拠に載せているのでしょう。

 

 

 

08:43『日常』の国内評価:「アニメBD・DVDの売上を見守るスレ」の影響

08:56~海外アニメランキング人気作の一例

上に紹介した三つの海外アニメランキング首位を一例として挙げています。

・『カウボーイビバップ

…「Paste Magazine」アニメランキングの首位。動画内で引用したのは北米版DVD完全版パッケージイラスト。

www.amazon.co.jp

・『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST

…「My Anime List』の評価値首位。動画内で引用したのはBlu-ray Disc Boxのキービジュアル。

www.hagaren.jp

・『進撃の巨人』…

「Crunchyroll」アニメランキングの首位。動画内で引用したのは「Final Season」のキービジュアル・

animestore.docomo.ne.jp

無論、これ以外にも人気作は数多く存在するのは言うまでもありません。

 

09:09~結局は自分の感性が物を言う

動画内で取り上げた星野源「日常」は2011年発表、アルバム「エピソード」収録。星野源は『日常』の愛読者を公言しているので、この楽曲も『日常』を意識しているように思えます。

ちなみに、「エピソード」収録の「喧嘩」には、《きみはなかなかにぬかしおる》という歌詞も出てきていました。

www.youtube.com

natalie.mu

また「日常」が収録されているアルバム「エピソード」の初回特典には、あらゐ先生の描き下ろし4コマ漫画のついたペーパー「デラ新聞」が付いてきました。

星野源とあらゐ先生はほかにも関連があり、星野源公式ホームページのトップページイラストをあらゐ先生が担当していもします。

 

09:25~世界一売れているハンバーガーとコーラは世界で一番美味いに決まっている

加藤元浩『Q.E.D.証明終了』32巻63話より。

kc.kodansha.co.jp

 

09:32~「アニメDVD・BDの売り上げを見守るスレ」

動画内で引用したのは2011年4月3日に立てられたスレッド。「売りスレ」の歴史と文化、隣接するスレッドについて掘り下げていくと、それだけで解説動画が一つ作れてしまうので、ここでは深くは追及しないでおきます。

yuzuru.5ch.net

 

09:40~株式会社オリコン

動画内で引用した会社ロゴはこちら。

ファイル:Oricon Logo 2017.svg - Wikipedia

会社概要はこちら。

www.oricon.co.jp

 

09:50~「覇権」「爆死」

ニコニコ大百科「覇権アニメ」「爆死」の記述を参考。

dic.nicovideo.jp

dic.nicovideo.jp

2ちゃんねる5ちゃんねる)の売りスレアニメDVDBDの売り上げを見守るスレ)内で使われる用で、各クールにおいて映像ディスクBDDVD)のオリコン推計売り上げ枚数の各巻均が最も多い深夜アニメに対してこの言葉は使われる。

ほとんどの場合、深夜アニメ映像ディスク1クールなら全6巻、2クールなら全8~12巻程として発売されるのが一般的である。アニメ同士で売り上げ枚数を競う習慣のある売りスレでは、映像ディスク巻数の異なるアニメ同士がに争うために、各巻の売り上げ枚数を均しBD分とDVD分を合算した累計均と呼ばれる数値で序列をつけることになっている。

この累計均によって定められる序列において1位となるアニメが覇権アニメとして認定される。

爆死とは売り上げが乏しかった作品を揶揄する際に用いられる喩表現である。
何を以って売り上げが乏しいかを判断するかはこの言葉を使う人それぞれの基準であり(中略)もしあなたがある作品について和やかにりたい場合は、この言葉は使わないことをお勧めします。

なお、売り上げが乏しい=「爆死」と表現されるに至った経緯は、2005年頃、2ちゃんねる掲示板ーム業界、ードウェア2ch掲示板』にて、ゲームソフトの売上速報を海外掲示板に書かれるリーク情報から得ることがしばしばあり、そこで集計できないほど少ない売上のソフトに使われていたワードbomb」から。その煽り的な用法と呂感の良さから、「爆死」として多方面に普及した

 

なお、動画内の画像『ハケンアニメ!』はアニメ制作現場を舞台にした辻村深月の小説であり、「ハケン」は一番の話題作ぐらいの意味合いで使われています。

 

10:40~「売りスレ」は半年で1600ものスレッドを消費した

4月3日のスレッド「3957」は上にリンク、10月3日のスレッド「5660」は以下のリンクより。

hato.5ch.net

 

 

10:39『日常』の国内評価:「売りスレ」からの攻撃

10:59~「売りスレ」の拡散には「2ちゃんねるまとめブログ」が加担した

2011年当時、2ちゃんねるのスレッドを収集・転載する「まとめブログ」は破竹の勢いであり、最大手となると月間1億PVを誇っていました。

gigazine.net

動画内でも触れた通り、一部の「まとめブログ」は、PV数を増やしたいがために過激な話題を求め、「売りスレ」に辿り着きます。結果、「売りスレ」はますます衆目を引くようになり、2ちゃんねるの外でもアニメ作品を映像ソフトの売上で評価を固めるネットユーザーが生まれてしまいました。

「売りスレ」を拡散し、ひいては『日常』を叩く風潮を形作った「まとめブログ」について、ここでは具体的な記事を紹介することはしません。

一つ、そうした「まとめブログ」に輪郭を与えるとするなら、2ちゃんねるが特定の「まとめブログ」に転載禁止を言い渡したニュースが挙げられるでしょうか。

www.itmedia.co.jp

ここで警告された指定された「まとめブログ」のうちのいくつかは、「売りスレ」の拡散に大きく関わっていました。

 

11:13~アニメDVD・BD売上一覧(京都アニメーション

参照にしたのは「アニメDVD・BD売り上げ一覧表まとめWiki」より。各作品のBD/DVD1巻売上数を抜き出して引用。

※サイト内には「制作会社別の売上数」をまとめた一覧がありましたが、何を集計したデータであるのか一切明記されていなかったため不採用。

w.atwiki.jp

京都アニメーション作品(2006~2011年)DVD・BD1巻の売上数

2006年 涼宮ハルヒの憂鬱    36,095
2007年 らき☆すた               38,671
2007年 CLANNAD                 27,834
2009年 けいおん!                 53,472
2009年 涼宮ハルヒの憂鬱二期  39,408
2010年 けいおん!!            74,601
2011年 日常                        *5,296

もっとも、動画内で引用したこの数字も、過信は禁物。

 

オリコンランキング➡2ちゃんねる売りスレ➡まとめwikiと転載を繰り返している

まとめwikiの構造上、第三者が改竄が用意に行える

 

ため、まったく厳密ではありません。

本来ならばファクトチェックをするべきですが、今回の趣旨は映像ソフトの正確な売り上げ枚数にはないので、手間を省略して動画内での注意喚起に留めています。

 

なお、映像ソフトの売上で調べると、サイトや引用者によってかなり数字にもばらつきがみられることが分かります。これは、

 

・BDとDVDを合算した数字とそうでない数字

・累計平均(総売上数を映像ソフトの発売巻数で割った数値)と、発売初週の出荷数

・累計平均の算出方法の差(売上数非公表の映像ソフトを「数値0」とするか「除外」するかで数値に違いが出る)

 

が混同されたまま、引用者が拡散していった結果だと考えられます。

 

11:39~アニメ『日常』スレッドを荒らす「売りスレ」住人たち

こちらのスレッドを参照。

kamome.5ch.net

 

12:16~オリコン有料サービス「you大樹」

ロゴは次のリンクより引用。

ranking.oricon.co.jp

 

12:24~京都アニメーションのヒット作品(2000年代後半)

画像は公式ホームページの作品紹介記事バナーより。

www.kyotoanimation.co.jp

 

 

12:56『日常』の国内評価:Eテレ放映と子供人気

12:56~Eテレ放映版『日常』予告(30秒ver)

拾い物の映像であるため詳細は失念。

冒頭部分に『日常』の前番組であったアニメ『ファイ・ブレイン 神のパズル』第一シリーズの映像が入っているため、2011年12月の土曜夕方に放映されていた予告か。

 

13:05~Eテレにて再放送されたアニメ作品

ラブライブ!』は2016年、『SHIROBAKO』は2020年に、『日常』と同じ土曜夕方の枠で再放送されています。

eiga.com

www6.nhk.or.jp

 

13:11~『日常ディレクターズカット版DVD-BOX』

パッケージ画像は以下のリンク先より。

www.shinonome-lab.com

 

13:24~再放送を希望する番組を募るEテレHP「Eテレ お願い!編集長」

以下のアーカイブより引用。

web.archive.org

 

 

13:54『 日常』の国内評価:女性人気

13:56~『日経エンタテイメント!』2012年10月号
特集「女子がときめく少年マンガ・アニメ・ラノベ」、日経BP社発刊。

 

14:14~アニメ雑誌御三家のうち、『アニメージュ』だけ『日常』を取り上げていなかった

厳密には、『アニメージュ』にも、2011年1・3・4月号に『日常』の番組宣伝記事が掲載されています。

ですが、アニメの放映が始まった2011年4月以降、特集記事がなくなってしまいます。これは他の大手アニメ雑誌アニメディア』『Newtype』が、アニメの放映時期に当たる4~9月、特集記事にページを割いていたのとは対照的でした。

(『アニメージュ』7月号にはキャラ弁企画にみおと阪本さんがチョイスされている、という変化球の企画がありましたが)

 

動画内では、『アニメージュ』が『日常』を取り上げなかった理由について、「『アニメージュ』の読者層と『日常』の視聴者層が異なっている」と考えられていたためではないか、と考察しています。

しかし、これは推測に過ぎないので、もしかしたら他の理由があったのかもしれません。

 

14:23~『Free!』と『日常』『氷菓

『Free!』の画像は京都アニメーションの公式ホームページから。

www.kyotoanimation.co.jp

動画内では、「『日常』『氷菓』が女性層を集めたため『Free!』の制作に繋がったのではないか」と書いていますが、こちらについても憶測にすぎません。参考程度に聴いておいてください。

 

 

 

14:32『日常』の国内評価:SUGOI JAOAN入賞から海外へ

14:32~「SUGOI JAPAN AWARD」2015

動画内の記事内容は、下記のリンクより引用。

www.itmedia.co.jp

web.archive.org

 

 

15:11~2021年発売の特典冊子付の英語吹き替え版『日常』Blu-rayボックス

『Nichijou - My Ordinary Life The Complete Series Limited Edition + Digital』を指しています。

特典冊子には、日本で発売されたDVD・BD「特装版」ジャケットイラストや、あらゐ先生描き下ろしイラストを収録。

特装版を持っていないのであれば、日本語圏のファンであっても「買い」の商品だと思います。

www.amazon.co.uk

 

 

15:25 「何が起こるか分からない、だから面白い!!それが野球ってね!!」

15:26~「何が起こるか分からない だから面白い!! それが野球ってね!!」

『日常』6巻158ページより。

 

15:37~ 中南米では名言として紹介されている

「Nunca se sabe lo que va a pasar… ¡Y eso es divertido! ¡De eso se trata el béisbol!”」でググってみると、中南米の野球チームが確かに「何が起こるか~」を引用していることが分かると思います。

動画内で引用したのは

ニカラグア野球代表チーム応援アカウント(多分非公式アカウント)

ニカラグアの野球チーム「エスタディオデニス・マルティネス」(多分非公式アカウント)

・メキシコプロ野球チーム「ラグナ・ユニオン・コットンファーマーズ」(多分公式アカウント)

・メキシコプロ野球チーム「サルティーヨ・サラペメーカーズ(公式アカウント)

 


ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org


www.facebook.com

ja.wikipedia.org

 

16:32~『日常』タイトルロゴ

wikipedia掲載の『日常(漫画)』記事より。

ja.wikipedia.org

 

 

 

16:41 おわりに

16:42~アニメ『日常』キービジュアル

京都アニメーション公式ホームページから引用。

www.kyotoanimation.co.jp

 

16:54~アニメ『日常』放映当時の評価

アニメ『日常』放映後に発表された批評を列挙しておきましょう。

その批評のタイプは、大きく分けて三つに分けられます。

京都アニメーションが『日常』を制作したという背景を重視しつつ、表題と内容の落差を指摘する文章

藤津亮太「『日常』自然を装う作為、おかしみに」(朝日新聞夕刊、2011年6月4日)
・と~しき「『日常』は非日常? 否、非日常こそが『日常』なのである」(『アニバタ Vol.6』収録、2013)
など

サブカルチャー批評の術語(前回の註釈で紹介した「空気系」「日常系」)を用いて他のアニメーション・漫画作品と比較するような文章

福田淳「「日常系マンガ」が人気…現実離れのステキ空間」(読売新聞夕刊、2011年11月28日)
小森健太朗「《あずまんが大王》から《日常》へ 〈空気系〉概論」(『神さもなくば残念。2000年代以降アニメ思想批評』収録、作品社、2012)
・志津A「『日常系アニメのソフト・コア』イントロダクション」(『セカンドアフター臨時増刊号』、2014)
など

③ アニメ『日常』の地上波放映直前(2011年3月)に発生した東日本大震災と関連付けて、震災の余波が続くなかで『日常』が放映された意味を問う時評

・岡本竜樹・樋口孝司・大窪善人「≪座談会≫マンガ・アニメ『日常』から考える(非)日常のフラグメンツ」(『SOCIOLOGICAL SEMINAR Vol.02』収録、2011)
・鈴木ピク「生まれ来る世界に、おはよう―“日常”以降の京都アニメーション―」(『アニバタ Vol.6』)
など

もちろん、これら以外にも、インターネット上ではさまざまな感想・寸評が投稿されていました。 

 

17:08~未来(おそらく七年後)の東雲研究所

『日常』9巻157ページより

 

17:30~三好一郎さんの担当したエピソード

「ヒヤシンス回」の画像は、第二十話「日常の86」。

「キャンプ回」の画像は、第六話「日常の26」。

「校長と鹿が戦う話」の画像は、第六話「日常の24」。

 

17:42~「Funimation UK & IRE」2021年12月1日のツイート

ちなみにnichijou 15th anniversary box setを発売したKodansha USの告知ツイートにも、鹿の絵文字が描かれていました。

 

 

17:53~あらゐけいいち短編01「邂逅」

あらゐ先生の公開しているアニメーション動画。他の作品も秀逸なので、ぜひご覧になってください。

www.youtube.com

 

17:56~『CITY』に「長野原大介」の名前が登場

『CITY』1巻、162ページ

あらゐけいいち動画「【アニメ】丑三つ時の雨宮さん」の元ネタまとめ

あらゐけいいち動画「【アニメ】丑三つ時の雨宮さん」

www.youtube.com

 

こちらの動画の背景ネタについて考えていきたいと思います。

 

※動画時間0:48の元ネタは全て判明していません(詳細は後述)。

元ネタに関して知っている箇所がありましたら、情報を頂けると助かります!

 

 

 

⓪「雨宮さん」の初出

雨宮さんは、今回の動画が初の登場ではありません。

 

初出は、あらゐ先生が『月刊ニュータイプ』誌上にて毎月連載している半ページ漫画『天国』内の一企画「雨宮さん」シリーズでした。

 

漫画の「雨宮さん」シリーズは、『月刊ニュータイプ』の2017年8月号~12月号にかけて、全五話発表されています。

 全五話のエピソードタイトルは以下の通り。

 

20178月号「雨宮さん」

20179月号「雨宮さん 一人暮らし」

201710月号「雨宮さん バイク通勤」

201711月号「雨宮さん侵略調査隊」

201712月号「雨宮さん職場」

 

「丑三つ時の雨宮さん」は、第二話「②一人暮らし」を元にしています。こちらの話もまた、丑三つ時に目を覚ました雨宮さんが、可愛いオバケに遭遇するという物語になっていました。

 

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月刊ニュータイプ』2017年9月号より

 

 

 

 

①本編0:12

「雨宮ハウス」の看板ロゴマークが、「ステーキ宮」の旧ロゴマークになっています。

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「雨宮ハウス」の看板

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ステーキ宮の旧ロゴ

 

 

 

 

②本編0:20

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・机の左端に置いてある本はカート・ヴォネガット『猫のゆりかご』(和田誠の装丁)。『猫のゆりかご』は、『日常』3巻や9巻においても引用されていました。

あらゐ先生のヴォネガットへの思いについては以下の記事参照。

【英文記事翻訳】ギャグ漫画の傑作『日常』は、タランティーノの「失敗作」から着想を得ていた - お前はあらゆる頂上の深さである

 

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ヴォネガット『猫のゆりかご』

 

 

 

・机の真ん中に置いてあるのは「あらゐけいいちの立体」から「ゆめたまご」(ただし、商品版に付属している少女のキャラクターの姿はなし)。

 

・机の右端に並べてある本は、『学研まんがひみつ/伝記シリーズ』。最新版ではなく、主に1970~80年代に発行されていた旧版を描いています。赤い背表紙が特徴的ですね。左から順に、「切手のひみつ」「一休」「ライト兄弟」「2年生の算数のひみつ」「キュリー夫人」「エジソン」「ようかい」。

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「学研まんが ひみつシリーズ 切手のひみつ」

 

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「学研まんが 伝記シリーズ とんちおしょう 一休」

 

 

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「学研まんが 伝記シリーズ 大空へのちょう戦ライト兄弟

 

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「学研まんが ひみつシリーズ 2年生の算数のひみつ」

 

 

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「学研まんが 伝記シリーズ ノーベル賞を二度受賞した キュリー夫人

 

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「学研まんが 伝記シリーズ 偉大な発明王 エジソン

 

 

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「学研まんが 事典シリーズ ようかい伝説事典①」

※この本だけ刊行年が1990年代とズレているので、

引用している表紙の単行本とは別の旧版があるのかも。未確認。

 

 

 

・画面右に描き出されているペンギンは「グリコペンギン」。れっきとしたあらゐ先生のキャラクターですが、元ネタは名前の通り、グリコのおまけとして付属していたペンギン(星のペー)の食玩でした。

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あらゐ先生のイラスト「涼しく」https://twitpic.com/aaqth9

はかせの隣に「グリコペンギン」の姿があります。

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グリコのおまけ食玩「星のペー」

 

 

 

 

③本編0:38~0:41

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・PLUSH TOY→「テルテル坊主」のデザインぬいぐるみを抱えているのは、「雨」宮さんという名前からの連想でしょう。前の場面’(0:29)の電灯の紐にテルテル坊主をぶら下げているのも同じ理由から。

 

・Japanese Armer→鎧に雨雲の家紋が入っているのも、ぬいぐるみと同じく「雨」宮さんだからだと考えられます。

 

・MANJI-KABURA→『風来のシレン』シリーズに登場する武器「剛剣マンジカブラ」が元ネタ。ただし『シレン』シリーズに登場するマンジカブラとは異なり、鍔の部分が分かりやすい卍型にはなっていません。あらゐ先生の『シレン2』への思い入れについては、雑誌『コンティニューvol.59』掲載の「千年王国」参照。

 

・KSC M11A1→エアソフトガンamazonの商品ページにある「KSC M11A1 HW 18歳以上ガスブローバック」掲載の写真をそのまま模写する形で、イラストを描いています。

 

Red bull→飲み終えた後、雨宮さんの背中に一瞬だけ翼が生えたイメージが見えるのはレッドブルのキャッチコピー「翼を授ける」から。

 

 

 

 

 

④本編0:44

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 ・消火器が「鳶口」になっています。鳶口は江戸時代に、火災の消防活動に用いられました(鳶口で出火した周りの建物を破壊することで延焼を防いだ)。現代の噴射式の消火器の代わりに、旧時代の鳶口が置いてあるというギャグになります。

 

・壁のシミにオバケのキャラクターが浮かび上がっています。この後に登場するオバケの伏線でしょう。左上のタラコ唇は「オバケのQ太郎」、その隣は「ねないこだれだ」、真ん中は「おばけのホーリー」、右下は「ゴーストバスターズ」、右上は「おばけのキャスパー」でしょうか。

 



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ねないこだれだ (いやだいやだの絵本) | せなけいこ, せなけいこ |本 | 通販 | Amazon
おばけのホーリー 1 ぼくがおばけのホーリーだ (小学館のテレビ絵本シリーズ) | |本 | 通販 | Amazon

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⑤本編0:48

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・元ネタ探しの最難関ポイントになります。特定できていない書籍もありますが、ひとまず判明している範囲内で見ていくことにしましょう。

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特定することのできた書籍は「□」で塗りつぶしています。

他の単行本・書籍に関する情報を募集しています!

 

 

 

(1)漫画系

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手塚治虫火の鳥』1~3巻(朝日出版社刊の大判サイズ)

猫部ねこ『きんぎょ注意報』1巻(新装版ではなくオリジナル版の表紙)

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藤子・F・不二雄藤子不二雄A『UTOPIA 最後の世界大戦』(小学館クリエイティブの復刻版)。表紙に描き出されている少年とロボットは、あらゐが2014年に発表した「ぐんま県民マラソン」イラストにも登場していました。

手塚治虫ブッダ』1巻(潮出版社、復刊版ではなく旧版)

UTOPIA 最後の世界大戦 (復刻名作漫画シリーズ) | 藤子・F・ 不二雄, 藤子 不二雄A |本 | 通販 | Amazon

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水沢めぐみ姫ちゃんのリボン』10巻(最終巻)

手塚治虫『新寶島』(文庫版ではなくオリジナル版)

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5012 手塚治虫と酒井七馬が新宝島奥付にて断絶 | 漫画家・写真家玉地俊雄 紫煙のゆらぎ - 楽天ブログ

 

 

 

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玖保キリコ『いまどきのこども』1巻

いまどきのこども: なつかしマンガ

 

 

 

 

(2)小説系

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・一番左はエーリッヒ・ケストナー『エミールと探偵たち』。新版だと『エーミールと探偵たち』になっているので旧版の岩波少年文庫(1974刊)でしょう。

・その右側にある横に倒れた二冊の本は吉野源三郎『エイブ・リンカーン』とサカリ・トペリウス『星のひとみ(これは若干怪しい?)』。どちらも岩波少年文庫つながりです。

・『エイブ・リンカーン』の上に乗っかっている本は不明。背表紙から判断する限り、おそらく「岩波少年文庫」発の小説で、「少しだけ見えている表紙イラスト」がヒントになりそうですが…

ヤフオク! - エーミールと探偵たち ケストナー 小松太郎 岩波...

 

 

 

 

 

 

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・内田百閒『サラサーテの盤』(単行本)
サラサーテの盤(内田百間 著) / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」 / 日本の古本屋

 

 

 

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内田百聞『冥途』(画・金井田英津子

冥途 | 内田 百けん, 英津子, 金井田 |本 | 通販 | Amazon

 

 

 

f:id:aliis:20210310093923p:plain

小林多喜二蟹工船・党生活者』
蟹工船・党生活者 (新潮文庫) | 多喜二, 小林 |本 | 通販 | Amazon

 

 

 

 

f:id:aliis:20210310095754p:plain

ギャビン・ライアル『深夜プラス1』

深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1)) | ギャビン・ライアル, 光, 菊池 |本 | 通販 | Amazon

 

 

 

 

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森村誠一『高層の死角』(講談社、ハードカバー版)

 メルカリ - 森村誠一 高層の死角 ハードカバー 講談社 裸本 カバーなし 乱歩賞 (¥600) 中古や未使用のフリマ

 

 

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井上ひさしひょっこりひょうたん島1 ライオン王国の巻(上)』ちくま文庫

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水野良安田均ロードス島戦記』(題名ロゴの配置的に、1988年刊行の角川スニーカー文庫旧版だと考えられます)。

水野良、出渕裕、安田均]によるロードス島戦記灰色の魔女ORIGINAL EDITION(角川スニーカー文庫)

 

 

 

 

 

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江戸川乱歩全集〈第2〉パノラマ島奇談』 (1969年刊行)

 

 

 

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松本清張『空の城』

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(3)エッセイ・洋書系

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五木寛之『こころの天気図』

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東海林さだお『キャベツの丸かじり』

キャベツの丸かじり (文春文庫) | 東海林 さだお |本 | 通販 | Amazon

 

 

 

f:id:aliis:20210310095455p:plain

里見真三『賢者の食欲』

賢者の食欲 | 里見 真三 |本 | 通販 | Amazon

 

 

 

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沢田允茂『考え方の論理』

 

 

 

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長谷川七郎『現代産業美術』

 

 

 

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「季刊 水墨画 No.7 松の描法」

季刊水墨画 (No.7) | 日貿出版社 |本 | 通販 | Amazon

 

 

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Case Study Houses (Taschen 25th Anniversary Special Editions)Amazon | Case Study Houses (Taschen 25th Anniversary Special Editions) |  Smith, Elizabeth A. T., Shulman, Julius, Gssel, Peter, Loughrey, Shannon,  Loughrey, Peter | History

 

⑥本編0:56

・画面右側にある仮面は『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』より「ムジュラの仮面」。

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⑦本編1:02

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・くいしんぼうゴーストが手にもっているのは、「イトー製菓のバタークッキー」。『CITY』2巻「第18話」の中にも同じバタークッキーが登場しています。

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『CITY』2巻、69ページ。

『4コマnanoエース』の付録として付いてきた『日常』コラボポスターまとめ

4コマnanoエース』(以下、『なのエース』)は、2011年に角川出版社が創刊した4コマ漫画雑誌です。

 

 

 そして、『なのエース』の初期(vol.3以降)に、目玉付録の一つとして付いてきたのが『日常』「コラボポスター」です。

 

これは、『日常』の作者あらゐけいいち先生/アニメ『日常』を手掛けた京都アニメーション以外の漫画家・イラストレーターが、公式で二次創作イラストを手掛けるという企画でした。

 

一般に、漫画アニメのコンテンツにおいて、原作者以外のさまざまな方がイラストを手掛けるという企画は、それほど珍しくはありません。

しかし、『日常』の二次創作を他の作家が公式で行うアンソロジー的な企画は、現在の目から見ると物珍しく思われます。

 

何故このような企画が行われたのでしょうか。

当時(2011年)の角川書店は、『日常』を『ハルヒ』『らき☆すた』『けいおん!』に続く京都アニメーション発のアニメとして売り出すべく、メディアミックス展開に大きく力を入れていました。

ですから、同じ販売戦略を取ろうと考えて、コラボポスター企画を進めていたのでしょう。

 

 そもそも、『なのエース』は、アニメ化を果たした『日常』のメディアミックス展開を後押しするために創刊された(少なくとも人気の後押しが目的の一つだった)雑誌でした。

その意味で、コラボポスターという発想が出てきたのはむしろ自然なことでした。

 

 

 

また、ポスターイラストを担当した人選を見てみると、『少年エース』系列のKADOKAWA作家が案外少なく、『きらら』系列の芳文社作家が多いことに気づかされます。

 

『なのエース』は「4コマメディアミックス誌」として始まりました。

ですから編集部は、『きらら』系列の4コマ漫画家を連載陣に加えようと考え、コラボポスターに作家を起用して、購読者の反応を窺うといった目的もあったのかもしれません。

(実際に、芳文社で連載を持っていた漫画家が、コラボポスター掲載後、角川系列の雑誌で連載を開始している事例がいくつか確認できます)

 

以下、『なのエース』のどの号に、どの作家さんがコラボポスターを担当していたのかまとめています。

 

(画像は拾い物です。然るべき関係者から指示があれば、すぐに削除等の対応を取らせていただきます。)

 

 ご参考までに。

 

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Vol.3 大沖

芳文社はるみねーしょん

後に「電撃大王ジェネシス」で『わくわくろっこモーション』

出版社というよりは、あらゐ先生の友人という繋がりから抜擢されたのかもしれません。

 

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Vol.3 異識

芳文社『あっちこっち』

後に「電撃だいおうじ」で『ゲーメイト』

 

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Vol.5 高野うい

成年誌中心。

コンプティーク』が『日常』に乗っていたのと同時期、同雑誌に『HoneyComing』を連載していました。

 

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Vol.5 さめだ小判

成年誌中心

 

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Vol.8 あっと

MF『のんのんびより

のんのんびより』がアニメ化するのはこのポスターの約二年後になります。

 

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Vol.8 原悠衣

芳文社きんいろモザイク

きんいろモザイク』のアニメ化も『のんのんびより』と同時期なので二年後ですね。

 

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Vol.9 すか

芳文社『ひろなex』

後に「なのエース」で『空の休息』連載

初めて「なのエース」作家がポスターを担当しています。

 

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Vol.9 得能正太郎

このポスター製作の約一年後に芳文社『NEWGAME!』連載開始

アニメ化が四年後なので、この作家さんが認知度を上げるのは少し後のことですね。

 

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Vol.11 なぐも。

芳文社『ウォーターガールズ』

 

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Vol.11 銃爺

ニトロプラス作品や『文豪ストレイドッグス』のコミカライズ

 

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Vol.12 こむそう

芳文社天然あるみにゅーむ!

 

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Vol.12 水薙竜

講談社ウィッチクラフトワークス

初めて芳文社・角川に由縁のなさそうな作家が起用されています。

どういう繋がりで起用されたんでしょうね。

 

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Vol.13 なまにくATK

ニトロプラス所属イラストレータ

 

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Vol.13 高内優向

「ケロケロA」にて『それいけ!桃太郎電鉄

 

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Vol.14 kona

芳文社『こいこいドロップ』

 

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Vol.14 ms

芳文社『少女公団アパートメント』

 

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Vol.15 カヅホ

芳文社キルミーベイベー

 

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Vol.15 長浜めぐみ

イラストレーター、過去に『ガンダムエース』にピンナップ掲載

 

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Vol.16 鈴木小波

「ケロケロA」にて『ネットゴーストPIPOPA

 

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Vol.16 八色

芳文社「バミれ、みどりちゃん!」

 

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Vol.17みずのもと

「なのエース」にて『あなざーデッドマン・ワンダーランド

 

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Vol.17 むねきち

「なのエース」にて『ヒマん娘』

 

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Vol.19 TAGRO

講談社変ゼミ』。

角川書店との繋がりは後の『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』。

出版社というより、あらゐ先生と親交のある漫画家として選ばれたのかもしれません。

 

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Vol.19 はりかも

後に芳文社うらら迷路帖

うらら迷路帖』連載開始はこのポスターの二年後、アニメ化は五年後になります。

 

【英文記事翻訳】ギャグ漫画の傑作『日常』は、タランティーノの『Four Rooms』から着想を得ていた

 

あらゐけいいち先生へのインタビューを含んだ『日常』『CITY』のレビュー記事(英文)を翻訳しました。

・意味が通りやすくなるように、逐語訳ではなく意訳をした部分がかなりあります。原文の細かなニュアンスについては元記事を参照してください。

・読みやすさを考慮して、記事の中に小見出しを付け加えています。

・記事の特性上、特定の作品に辛口の評価が下されていますが、訳者の意図とは無関係です。

 

元記事

Nichijou, the Goofy Manga Classic, Drew Inspiration From a Tarantino Flop

www.fanbyte.com

 

 

以下翻訳↓

 

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 《ギャグ漫画の傑作『日常』は、タランティーノの「失敗作」から着想を得ていた》

クエンティン・タランティーノが監督を務めた映画『Four Rooms』(1995)は、決して完成度の高い作品とは言えない。

だがしかし、この映画はあらゐけいいちの漫画『日常』に大きな影響を与えていたのである!

  

 

  

日常生活を題材に優れた作品を紡ぐ

世の中には本当に多くのメディアがあり、多くの創作物で溢れている。

にもかかわらず、私たちの普段の生活をそのまま切り取ったような作品はほとんど見られない。大半のメディアが、人々の暮らしぶりを大袈裟に脚色するか、完全に無視する形で作品を送り出しているためである。

 

私たちが重要な事件や特別な出来事に出くわすことは、そう多くない。人生の大部分は、日々の些細な事柄や、何も起こらなかった日の出来事によって構成されている。

だというのに、日常生活という題材は、とにかく評判が悪い。これは、視聴者や読者が非日常的な出来事の方を歓迎し、メディアに求めているせいでもある。

 

しかし、そうだとすると、漫画家・あらゐけいいちの功績は評価されるべきだろう。

この漫画家は、たとえばノック式シャープペンシルの芯を出そうとした登場人物が、誤って芯の飛び出した先端部分の方を親指の腹で押してしまったときの、壮絶な痛みに悶える姿を漫画に描く。

タピオカミルクティーをストローで啜る登場人物が、タピオカの食感に恍惚とする姿を漫画に描く。

 

それは、あたかも世界中の「調味料」を、「メインディッシュ」の地位にまで引き上げて味わい尽くすかのような試みだ。

あらゐは、普段は顧みられない日常生活を題材にして優れた作品を紡ぎ、漫画家としてのキャリアを築いてきたのである。

 

 

あらゐけいいち漫画の群像劇

 あらゐの漫画のなかでも特に有名なのは、『日常』(英題「Nichijou」「My Ordinary Life」)だ。

2006年から2015年にかけて連載されたこの作品は、2011年にはほぼ忠実な形でアニメ化もされている。

現在も連載中の『CITY』は、『日常』の続編としての意味合いも持った作品である。

 

『日常』という題名を聞いて思い浮かべるのは、一般的には日本のサブカルチャーにおける一ジャンル「スライス・オブ・ライフ※」だろう。[※海外におけるサブカルチャー作品のジャンル区分、日本でいうところの「日常系アニメ・漫画」に近い]

だが、あらゐの漫画は「スライス・オブ・ライフ」とは似て非なる。

 

『日常』も『CITY』も、総じてショートコント的なつくりになっている。

読者は、登場人物が日々の生活のなかで喜んだり落ちこんだり、戸惑ったり、あるいはくだらないことで争うような話を垣間見ることができる。(ほとんど何も起こらない話もある)

 

また、群像劇形式で構成されているのも特徴的だ。あらゐは、自身の漫画の作風に相応しい存在として、愚かでしかし愛すべき街の住人たちの社会を、丸ごと描き出しているのである。

特に『CITY』ではその傾向が顕著であり、単行本第4巻までで40人以上もの人物が登場している。

 

あらゐは『Fanbyte[※掲載元のサイト]』に対して、次のようなコメントを寄せている。

 

これだけの大人数を動かして物語を完成させるのはとても難しい。毎回苦労しています。もちろん、とても楽しい作業でもあるんですけどね。すぐにアイデアを思いつくこともあれば、三日経っても何も出てこないこともあります。

 

 

 

あらゐけいいち漫画の「リアリティ」

 もう一つ、あらゐに特有の漫画特徴を考えるのなら、読者にとってありふれた場面から物語を始めて、次第に現実離れした描写を取り入れていくような表現が挙げられる。

 

たとえば、犬に噛まれた人は、現実に何人もいることだろう。

しかし『日常』の世界において、犬に噛まれた場合、ただ痛みにのたうち回るだけでは済まされない。苦しみ悶えるあまり、その人の口からレーザー光線が発射される。

 

洒落た喫茶店に置いてある紛らわしい名前のメニュー表を見て、面倒だと感じる人は珍しくない。

ただし、あらゐ漫画では、複雑なメニュー表の読み取りは自分自身の正気を保つための戦いとして受け止められる。

 

同級生への恋心をムキになって否定する高校生も、沢山いるに違いない。

これも、あらゐの世界では、悶々とした悩みを発散するために当事者が軍事兵器を持ち出してくる。

 

ここで共通して見られるのは、あらゐは現実とは異なる世界を、現実逃避の手段として用いていない点だ。

『日常』や『CITY』は、「もしも〇〇だったら」といった、あり得ない空想を叶えたりはしない。

代わりにそこに描かれているのは、「リアリティ」である。

「リアリティ」とは得てして、時にはオーバーなものとして、時には喜劇的なものとして、人の心に映るものだ。

そのような、私たち一人ひとりが感じ取っている「リアリティ」こそが、あらゐの漫画には通底して流れているのである。こうした描写が、強烈なギャグを生み出す力の源になっているのは間違いない。

 

ちなみに、これらの場面は、アニメ版『日常』(京都アニメーション制作)にて映像化された際、どれも素晴らしい出来栄えになっている。

 

 

 

あらゐけいいち漫画のルーツを探る

 くだらなさに溢れた状況設定、大量の登場人物が織り成す群像劇、変幻自在のリアリズム。

あらゐの漫画によく似た作品として思い浮かぶのは、『シンプソンズ』第7シーズン第21話、「スプリングフィールドに関する22の短いフィルム」だろうか。

このエピソードでは、一話で一つのストーリーを描く従来の形式を放棄して、一つの街に住まう大勢の人々の短い挿話を繋いでいく形式を採用している。〔参照:「シンプソンズファンクラブブログ」http://simpsons333.hatenablog.com/entry/2019/10/20/021805

 

しかし、あらゐによると、『シンプソンズ』は特に意図していなかったという。

 

海外のアニメは、ほとんど見たことないですね。『シンプソンズ』について知っているのは、黄色のキャラクターが出てくるアニメってことぐらいです。

 

代わりあらゐは、自身が影響を受けた作品として『あずまんが大王』を挙げている。

なるほど『あずまんが大王』は、人々のありふれた暮らしぶりをユーモラスに再現しつつも、時おり不条理な世界観が差し挟まれる作品である。あらゐが『あずまんが大王』から受けた影響は、推して知るべきだろう。

ほかにもあらゐは、影響を受けた作品として、カート・ヴォネガットの小説も挙げている。ヴォネガットからの影響も、言われてみれば確かに納得がいく。

 

ヴォネガットは文章の表現がとてもいいんです。誰もが重要だと思っている物事を、些細な出来事として描いてみたり、反対にありふれた出来事を極端に誇張してみせたり。大きな問題を小さく、小さな問題を大きくしていくやり方が、とにかく好きでした。

 

一方であらゐは、誰もが意外に思うであろう映画作品に感化されていた。クエンティン・タランティーノが監督を務めた映画、『Four Rooms』から大きな影響を受けたとあらゐは語っているのである。 

 

 

タランティーノの「失敗作」、映画『Four Rooms』とは

 1995年に公開された『Four Rooms』は、タランティーノが三人の監督(ロバート・ロドリゲス、アレクサンドル・ロックウェル、アリソン・アンダース)に声をかけて生まれた合作映画だ。

タランティーノは当時、映画『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』の成功によって、新進気鋭の監督として名を馳せつつあった。

しかし、先回りして言っておくと、『Four Rooms』は完全な「失敗作」である。400万ドル(約3億2千万円)の製作費を費やして、得られた収入はわずか20万ドルほど(!)であり、監督を含めた関係者は酷評されることになった。

 

今現在、この映画をわざわざ取り上げるのは、タランティーノが2007年に公開した『デス・プルーフ in グラインドハウス』のファンぐらいだろう。

デス・プルーフ』は、しばしばタランティーノ映画のワースト1位として話題に出てくるが、それに我慢のならないコアなファンが、汚名をそそぐために「いや、実はもっとひどい映画があってね……」といって『Four Rooms』を引き合いに出すのだ。

 

散々な評価の『Four Rooms』であるが、それではこの映画は、どのような内容の作品だったのだろうか。

この映画は、タランティーノを含む四人の監督がそれぞれ一つずつ話を制作した、アンソロジーの形を取っている。したがって、四つの異なる物語に分かれているのが本作の大きな特徴と言える。

物語の舞台はいずれもロサンゼルスにある古びたホテルで、新人ベルボーイのテッドが主役である。テッドは四つの話のすべてに出演し、各話につながりを持たせている。

 

ホテルに着任したばかりのテッドは、演者であるティム・ロスのオーバーな演技もあって、仕事をこなそうと過剰に意気込む青年として観客の前に現れる。

だが、そんなテッドのやる気は、急速に失われていく。働き始めて早々、常識では考えられない厄介なトラブルが、次から次へとテッドの身に降りかかったためである。

第一話「ハネムーンスイート お客様は魔女」では、テッドはホテルの一室を陣取る魔女たちの儀式を手伝わされる。

続く第二話「ROOM 404 間違えられた男」では、間男と間違えられたテッドが夫に拳銃を突きつけられる。

第三話「ROOM 309 かわいい無法者」では、宿泊客のベビーシッター役を請け負ったテッドが悪辣な子供にこっぴどくしてやられる。

 

すっかり憔悴してしまったテッドは、辞職を考えてキャシー・グリフィン演じるホテルオーナーに電話をかける。しかし取り合ってもらえず、そのまま最後の第四話「ペントハウス ハリウッドから来た男」にて、ホテル内でにわかに開催されたギャンブルに立ち会う羽目になる。このギャンブルは、敗者が小指を切り落とすというものだった。

 

 

 

Four Rooms』の問題点

 『Four Rooms』は、暗い雰囲気でありながら喜劇的でもあり、なおかつシュールな部分もある、野心的な映画を目指していたと思われる。

だが、そうした野心が実を結ぶのは稀であり、本作においても残念ながら上手くいかなかった。

 

まず、第一話「ハネムーンスイート」。この話は、魔女の集団が儀式を通して女神を召喚する場面がクライマックスとして想定されているはずなのだが、十分に描き出されているとは言えない。

その結果、ポルノ的な場面(儀式に必要な材料である精液を採取するために魔女がテッド相手にセックスをする)が中途半端に続いた後、尻すぼみで話が終わってしまっている。

第二話「ROOM 404」は、話にオチをつける代わりに、同性愛嫌悪的な描写を挿入するのだが、その根拠が乏しく、話としてうまく成立していない。

 

タランティーノが監督を務めた最後のエピソード、第四話「ペントハウス」はどうだろうか。

編集なしで撮影を続ける長回しのテクニックばかりが悪目立ちしているせいで、観客はスクリーンを通して映画を観るというより、タランティーノの作家性を観ているような気になってくる。

技法だけが浮いてしまっていて、作品の面白さに繋がっていないのである。

 

唯一、第三話「ROOM 309」だけが、短編作品として成功していると言っていい。

両親がホテルの外に出かけている間に、残された二人の子供は暴れ回り、スラップスティックな騒動を巻き起こした挙句、宿泊していた部屋で火災を起こす。

この話は、悪ふざけに昂じる子供たちの描写がよく練られている。一つ一つの場面を着実に積み重ねていって、視聴者にも納得のいく形で予想外の出来事が起こる物語の構成は圧巻だ。

 

しかし、結局のところ、この映画は失敗作だと言わざるを得ない。監督一人ひとりが好きなことをやって、四つの話の組み立てがなおざりになってしまっている。

「自分の映画を撮り終えるまで、他の三人がそれぞれどんな話を作っていたのか、何も理解していなかった」、三つ目のエピソードを監督したロバート・ロドリゲスは後に認めている。

 

 

 

あらゐけいいちが映画『Four Rooms』から受けた影響

 ここまで、『Four Rooms』の失敗している側面ばかりを挙げてきた。しかし、この映画があらゐに大きな影響を与えたというのも理解はできる。というのも、あらゐの漫画と『Four Rooms』は、話の構成がよく似ているからだ。

どちらの作品も、一話完結の短い話を描いている一方で、他のエピソードとの繋がりを示すような描写も散見される。よって、すべての話を通して見終えたとき、作品世界の全体像が浮かび上がってくるような構成になっているのである。

あらゐは、自身の漫画と『Four Rooms』の関わりについて、次のように説明している。

 

長編を描くのが、あまり得意じゃなかったんです。でも、短い話をたくさん描いてまとめれば、長編とはまた別の形で「全体」が作れるのだと『Four Rooms』から学ぶことができました。

自分には飽きっぽいところがあるので、短編を重ねる構成は、特に性に合っているのかもしれません。

 

もう一つ、『Four Rooms』との共通点として挙げられるのは、ティム・ロスの演じる主人公・テッドの立ち回りだろうか。

テッドは劇中、宿泊客の態度に逆上して盗みを働き、野蛮な暴力をふるう場面があるので、あらゐの漫画とは無縁に思われるかもしれない。

しかし自由奔放なテッドの姿は、あらゐの漫画に登場する多くの人物、とりわけ『日常』の主要人物の一人であるゆっこ(相生祐子)と重なり合うところがある。

 

また、理不尽なまでの不幸な目に遭ってしまうという点に注目すれば、テッドとゆっこはそっくりだ。

もっとも両者は、次々に降りかかる不運を前にして、対照的な態度を取っている。

テッドは自分の不幸を嘆き、業を煮やした後、最終的には自分一人だけが得をする道を選ぼうとする。

対するゆっこは、どれだけ不運に見舞われようともへこたれない。そして陽気さを忘れず、幸せを周囲に届けることが自分の義務だ、と言わんばかりの振る舞いをする。ゆっこは「バカ」で、至らないところもあるのだが、とにかく周囲のことを思って行動を続ける。

 

ゆっこは、どれだけ酷い目に遭っても挫けない。それでいて、日々の暮らしのなかで出会った人たちを否定せず、ありのままを受け入れる。

ゆっこの存在感は大きく、行動に一貫した軸のないテッドたち『Four rooms』の登場人物に比べて、圧倒的に印象に残る。

 

私たちは、ゆっこを見て「バカ」だと笑うだろう。だが同時に、ゆっこのことを「主人公」として、知らず知らずのうちに認めてしまっているはずだ。何か大きな成功や達成をゆっこが果たしたわけでもないにもかかわらず、である。

してみるとゆっこは、人間はドラマチックではない日々の生活のなかにあっても「主人公」になれるのだ、というメッセージを密かに主張していると言えるのかもしれない。

 

 

 

日常生活のなかにこそ、価値あるものは宿っている

 『Four Rooms』は、取るに足らない「失敗作」と判断されても仕方がない作品である。

さまざまな要素を取り入れようとしたのはいいが、まとまらずに空中分解しているのは明らかであり、個々のエピソードに注目してみても、ただ悪趣味なだけで完成度の低い作品群にしか見えないからだ。

 

ところがあらゐは、そうした価値がないはずの映画作品から、漫画を描く上での重要なヒントを見つけ出した。

もちろんあらゐは、映画をそのまま流用したわけではなく、十分に吟味し、発展させた上で自作に取り入れている。だが、それを差し引いても、『Four Rooms』があらゐの漫画作品の根幹を支える一部分になっているのは間違いない。

 

もしもあらゐが『Four Rooms』を視聴していなかったとしたら、『日常』や『CITY』は、全く違う作品になっていたのだろうか。その答えは誰にもわからない。

ただ、仮に『Four Rooms』と出会わなかったとしても、あらゐは何かほかの「失敗作」から独自に価値を見つけ出して、自身の漫画に活かしていたのは間違いないように思われる。

 

 

私たちが重要な事件や特別な出来事に出くわすことは、そう多くない。人生の大部分は、日々の些細な事柄や、何も起こらなかった日の出来事によって構成されている。

だというのに、日常生活という題材は、とにかく評判が悪い。これは、視聴者や読者が非日常的な出来事の方を歓迎し、メディアに求めているせいでもある。

 

あらゐは、そんな世の風潮に逆らうようにして、普段は顧みられない日常生活を題材にした優れた作品を紡いできた。

きっとそれは、私たちが見過ごしてきた毎日の暮らしのなかにこそ、価値あるものが宿っているということを、あらゐがよく知っているからなのだろう。

 

そして、誰もが見過ごしてきた『Four Rooms』のなかから、価値あるものを見出して『日常』や『CITY』を作り上げた実績が、あらゐの正しさを物語っている。

 

あらゐけいいち『CITY』作中の日時に関する考察

結論から言おう。

『CITY』作中の日時は、以下のように設定されていると考えられる。

 

単行本1巻 6月17日(土)の出来事

単行本2巻 6月18日(日)~19日(月)の出来事

単行本3巻 6月20日(火)~23日(金)の出来事

単行本4巻 6月23日(金)~24日(土)の出来事

単行本5巻 6月24日(土)~7月1日(土)の出来事

単行本6巻 7月3日(月)~7月15日(土)の出来事

単行本7巻 7月17日(月)~7月22日(土)の出来事

単行本8巻 7月23日(日)~7月24日(月)の出来事

単行本9巻 7月24日(月)~7月30日(日)の出来事?

単行本10巻  7月30日(日)~8月下旬の出来事?

 

単行本11巻(「泉りこの寝ぼけ」編) 8月25日の出来事

 

 

『CITY』作中の日時を特定する手順は、次のようになる。

 

①単行本1巻

・ 単行本2巻「第13話」で立涌が今日が日曜日だと発言。

 

・単行本1巻は曜日が明記されていないが、まつりが午前中で学校が終わって帰ってきていることと、単行本2巻との整合性を併せて考えると、「土曜日」の出来事だと考えて間違いない。

 

・単行本1巻「第10話」にて登場した写真雑誌「ミタケカメラ」の表紙には、「午月号」と記載されている。

「午月」とは旧暦5月の別名なので、単行本1巻の日時は6月中旬~7月下旬を想定しているのは間違いない。

 

・単行本6巻「第68話」にて、わこが脳内イメージで日めくりカレンダーをめくる描写がある。

切り取られたカレンダーにはそれぞれ「17日」「18日」「20日」「21日」「1日」「3日」と書かれており、そのうち「17日」「18日」「1日」は数字の色から休日だと考えられる。

実際のカレンダーを確認すると、2017年6月は「17日」「18日」が土・日曜日、2017年7月は「1日」が土曜日。

単行本1巻が土曜日の話であること、旧暦五月を舞台にしていること、『CITY』の連載開始時期が2016年9月であることを総合して鑑みると、単行本1巻は2017年6月17日(土)の出来事だと特定できる。

 

②単行本2~3巻

・幕間ページに明記されている曜日を確認すると、2巻が「日~月曜日」3巻が「火~金曜日」の出来事であることが分かる。

単行本1巻の日時が分かれば、2巻から3巻までの日時も曜日をヒントに確定できる。

単行本2巻は6月18日~19日(日~月)

単行本3巻は6月20日~23日(火~金)。

 

③単行本4巻

・単行本4巻は、単行本3巻の最後の話「第39話」から連続しているので「金曜日」の出来事。最後のエピローグのみ「土曜日」の出来事だと推測できる。

このエピローグでは、南雲・にーくらが学校帰りのまつり・えっちゃんとすれ違っているが、二人は次の単行本5巻冒頭に収録されている「第54話」で「退屈な午後」を過ごしている。つまり、このエピローグは、午前中で学校が終わり下校しているまつり・えっちゃんを描いていることになり、平日ではない「土曜日」の出来事だと推定できるのである。

単行本4巻は6月23日~24日(金~土)。 

 

④単行本5巻

・冒頭の「第54話」は「土曜日」の出来事、6月24日。「第57話」はあらまさんの休日を描いていて、夕方にサザエさんを見る予定だったとあるので、「日曜日」を想定していると考えられる。つまり6月25日。

「第58話」では、南雲たちが大学で授業に行っていることから平日になっていることが分かるが、そこから先は曜日をはっきりと特定できる描写はない。

 

・ただ、まつりとえっちゃんの中学放課後の描写、立涌の高校授業の描写から、学校が夏休みに突入する単行本7巻までは、平日を推定することができる。

・南雲が基本「土・日曜日」に洋食マカベでアルバイトをすると言っているのも、曜日を推定する手掛かりになる。

 

・南雲が馬券を買う話も、休日だと推定できる。

あらゐ先生が、作中に登場する「CITY競馬場」を中央競馬場として設定しているのなら、土日のみの開催であるはずなので日時は休日で間違いない。

地方競馬場を想定している場合は平日開催の場合もありうるが、「CITY大賞典」などの大掛かりなレースが開かれていることを見ると、可能性は低いように思われる。

だとすると、5巻の最後に収録されている「CITY大賞典」の話「第66話」は、土曜か日曜を舞台にしている可能性が高い。次の週末を想定しているのだとすれば、7月1日(土)か2日(日)の出来事ということになる。

 

上でも触れた単行本6巻「第68話」は、わこが日めくりカレンダーをめくるなかに「1日」と書かれた紙があり、「2日」と書いた紙はなかった。つまり、あらゐ先生は、「第66話」を7月1日として想定しているのではないだろうか。

・このことから、単行本5巻は 6月24日(土)~7月1日(土)の出来事と考えるのが相応しいように思われる。

 5巻の最後には「NEXT SummerTime Blues」と記載されており、次巻以降に本格的な夏が訪れることを示唆している。「第66話」が7月1日か2日というのは、ちょうど月をまたいでいるので、このキャッチコピーからしてみても相応しいように思われる。

 

⑤単行本6巻

・単行本6巻「第68話」は、先ほども書いた通りわこが日めくりカレンダーを脳内でめくっている。

その中で、今日を示すカレンダーに具体的な日付は書かれていないが、「大安吉日」と記されている。よって、「第68話」は2017年7月6日(木・大安)と特定できる。

・6巻の最初のエピソード「第67話」は、「第68話」よりも以前の出来事だが、具体的な日付を示す描写はなし。ただ、「第68話」の日めくりカレンダーに「3日」の紙があることを考えると、7月3日(月)の出来事。

・「第69話」で南雲がアルバイトをしていることから、土日の週末をまたいでいることが分かる。つまり7月8日か9日(土・日)の出来事。

・「第77話」の幕間ページでは、月曜日から金曜日まで過ぎたことが示唆されている。つまりこの話は、7月14日(金)。

・6巻終盤の「第78話」は、まつりとえっちゃんの下校時かつ夕方の出来事なので平日。「第77話」の次の話であることを踏まえると、同じ7月14日と考えられる。

・6巻の最後に収録されている「第79話」は日時不明。すぐ後で述べる理由から、7月17日(月)より前の日の出来事であることは間違いない。南雲が競馬新聞を読んで勝ち馬を予想していることから、7月15日(土)の可能性が高い。

以上のことから、単行本6巻の日時は7月5日(水)~7月15日(土)と考えられる。

 

⑥単行本7~8巻

・単行本7巻の初めに収録されている「第80話」は、鶴菱・編集長・安達太良父が三人とも休日が取れて、海に遊びに行っている。鶴菱は週末も洋食マカベで働いているため、単なる土日ではなく祝日である可能性が高い。

7月の祝日は「海の日」のみ。2017年のカレンダーを見ると「海の日」は17日(月)であるため、これまでに見てきた単行本1~6巻までの日時設定(6月17日~7月16日)と矛盾しない。

海に遊びに行くという物語の内容自体、「海の日」に相応しいように思われるし、「第80話」は7月17日(月)と考えて間違いないだろう。

ちなみに、「第80話」では編集長が「一か月前からアロハシャツを着ていた」という台詞があるが、編集長が初登場する単行本1巻「第12話」はちょうど一か月前(6月17日)の出来事。こちらの発言も整合性が取れている。

 

・「第81話」は立涌の高校が期末テストをしており、まだ夏休みに入っていない平日と分かる。つまり、7月18日(火)~21日(金)の出来事。21日は終業式があるだろうから、可能性は低いか。

・「第85話」は、週刊モーニングの初出時、この話以降「夏休み」に入ると編集のアオリ文が記載されていた。その後、「第87話」は南雲がアルバイトに出かけているために土日の出来事、7月22日(土)か23日(日)。

 

・「第89話」は、わこから9万円を借りた南雲が競馬に向かっているため、土日の出来事。その前に、御婆が南雲に対して大学が休みに入ったことを確かめる描写があることから、夏休みに入ってからそれほど時間が経過していないはず。よって、日時は7月22~23日、29~30日のいずれかだろう。

・「第92話」は、競馬に負けた南雲が帰ってきているために「第89話」と同日の出来事。また、題名から見てCITYレースの開始前日。

夏休みとはいえ、街ぐるみで行う大々的なイベントは週末に行うだろうから、その前日でありなおかつ休日である「第92話」は土曜日、7月22日か29日にまで日時の候補が絞れる。

22日と29日のどちらが正しいのかを特定する術はないが、単行本9巻以降の描写を考えると22日である可能性が高いため、本稿では22日の説を採用する。

以上の考察より、単行本7巻は7月17日(月)~22日(土)の出来事と言える。

 

・単行本8巻は「第92話」の翌日に開催されたCITYレースの出来事。最後に収録されている「第107話」のみ後日譚なので、それ以降の日付。7月23日(日)~24日(月)の出来事と考えるのが妥当か。

 

 

 ⑦単行本9巻

・単行本9巻から、日時の特定が難しくなる。

 

・「第111話」では、南雲たちが賞金の出る四つの大会に連続で出場している(そのうち一個は出場辞退)。「第115話」では南雲たちが「金塊現ナマ祭り」に参加し、「第118話」にて「クイズ大会」に参加。「第115話」「第118話」にてにーくらの衣装が変わっていることから、三つのイベントは別日に開催されている。つまり、最低でも3日が経過。

 

・「第120話」は南雲が午前中にアルバイトに出ているので土日の出来事。7月30日(日)と考えられる。

8巻までに比べると根拠は乏しいが、ひとまず単行本9巻は7月23日(月)~7月30日(日)と推定しておこう。

 

 ⑧単行本10巻

・単行本10巻冒頭の「第122話」だと、南雲が競馬中継を聞いているので土日。前の「第120話」のラストが、洋食マカベの夏季休業を告げられた南雲が昼食を奢ってもらう展開だったので、その続きか。だとすれば、前話に引き続き7月30日の出来事。

 

・「第123話」は、「第81話」にて告知されていた立涌のクラスでの追試。甲子園出場の垂れ幕が掛かっていることから、7月31日(月)以降の平日だと思われる。

 

・これ以降は時間を特定できない描写が続き、「第135話」にていきなり8月下旬にまで時間が飛んでいる。立涌の通う高校に掛かっていた垂れ幕が甲子園出場から甲子園優勝に差し替えられ、ナレーションでも「夏が終わる」との表記がある。

単行本10巻の正確な日時を追うのは不可能。ただ、9巻までと趣向を変えて、7月30日~8月下旬と幅広い期間の出来事を描いていると考えられる。

 

⑨上記の考察の矛盾点

・以上、単行本1巻~10巻に渡っての、日時に関する考察を書いていった。

あらゐ先生が『CITY』を単行本を作成する際に、いかに綿密に構成を練って、時間軸に関する配慮を行っているかが窺い知れると思う。

ただし、上記の考察では説明のつかない矛盾点もいくつか存在する。

矛盾のまま終わるのか、本稿での考察に誤りがあるのか、あらゐ先生が単行本11巻以降で説明していくのかは、今後考えていくべき課題としていきたい。

 

・矛盾1:週刊誌「CITY」の発行日について

単行本4巻「第47話」では、タナベさんがあらまさんに向かって、「明後日」に週刊誌「CITY」が発売されると話している。

上記の考察が正しいとすれば、「第47話」は6月23日(金)の出来事なので、週刊誌「CITY」が毎週日曜日に発売されていることになる。

雑誌が毎週日曜日に発売されることは、少数だが例が無いわけではないので、可能性としては十分にありうる。

だが、日曜日発売が正しいとすると、単行本1巻(土曜日)にてまつりやにーくらが、発売されてから日の経過した週刊誌の星座占いや特集の話を一斉にしていることになり、不自然である。単行本1巻の描写を見る限りだと、週刊「CITY」は毎週土曜日発売だと考えた方が相応しい気がする。

「第56話」にて、夜遅くの雀荘で店番をやっている店員が、「第47話」でタナベさんの語っていた新刊の週刊「CITY」を読んでいる。「第57話」のあらまさんの休日が土曜日の深夜~日曜日の話であり、おそらくは「第56話」も土曜日の深夜を舞台にしている。だとすると、やはり週刊誌「CITY」が土曜日に発売されていて、店員が店番をやる前に雑誌を購入したと考えた方が相応しいように思われる。

 

・矛盾2:「泉りこの寝ぼけ編」のカレンダーについて

本稿を発表した1か月後(2020年8月)に、『CITY』の単行本11巻が発売される。

そこに収録されるのは、おそらく「泉りこの寝ぼけ」と題された長編である。

単行本収録時には改変されるかもしれないが、雑誌掲載時、この「泉りこの寝ぼけ」編の第11話目には8月のカレンダーが登場していた。そしてカレンダーには今日の日に印が付されており、「寝ぼけ」編の日付が8月25日だと特定できるようになっていた。

ところが、このカレンダーは明らかに2017年8月のものではない。2017年の8月は「火曜日」から始まっているが、作中のカレンダーは「土曜日」から始まっている。土曜日から8月が始まるのは、「寝ぼけ」編が連載された2020年である。つまり、あらゐ先生は執筆時のカレンダーを参考にして、作中にカレンダーを書き入れたということになる。

『CITY』が「2017年」を舞台にしているという判断は、本稿にて日時を考察の肝になる部分なので、これが覆されるとなると本稿の考察そのものが誤っていることになる。

 

日時の設定の仕方が明らかに変化していた単行本10巻にて設定変更が行われ、8月のカレンダーが2020年のものに差し替えられたと見るべきか。

 

ほかに『CITY』日時に関する設定を発見されたり・本稿の考察の誤りを見つけられた方がいらっしゃれば、コメント欄ないしはtwitterにてご意見いただければ幸いです。

twitter:https://twitter.com/kumomajin

 

 ☆『CITY』単行本1巻~8巻までの時系列一覧

巻数 話数 曜日 時間帯 備考
1巻 第1話 10:13~昼 6 17 まつりの中学が午前で終わり
1巻 第2話 6 17  
1巻 第3話 6 17 立涌が昼食を取る
1巻 第4話 15:20 6 17  
1巻 第5話 6 17  
1巻 第6話 6 17  
1巻 第7話 6 17 鬼カマボコ・轟打ち合わせ。二人が面と向かって打ち合わせをするのは毎週土曜日?「落胆くん」最終回が告げられる
1巻 第8話 昼~夕 6 17 南雲アルバイト
1巻 第9話 6 17  
1巻 第10話 18:25~19:55 6 17 ミタケカメラ午月号
1巻 第11話 22:20~深夜 6 17  
1巻 第12話 深夜 6 17 編集長が一か月後(7月17日)の旅行に向けてアロハシャツを着始める
2巻 第13話 8:35 6 18 立涌が今日は日曜日と発言、南雲アルバイト、競馬あり
2巻 第14話 6 18  
2巻 第15話 朝~昼 6 18  
2巻 第16話 6 18  
2巻 第17話 昼~夕 6 18  
2巻 第18話 8:40~夕 6 18  
2巻 第19話 12:26 6 19 大学の授業あり
2巻 第20話 6 19  
2巻 第21話 13:24 6 19 高校授業あり
2巻 第22話 6 19 中学授業放課後
2巻 第23話 6 19  
2巻 第24話 6 19 南雲が昨日買ったハズレ馬券が「10レース」
2巻 第25話 6 19 鬼カマボコ、「落胆くん」最終話脱稿
3巻 第26話 8:35 6 20  
3巻 第27話 6 20 高校の始業前
3巻 第28話 6 20  
3巻 第29話 6 20  
3巻 第30話 6 20 南雲アルバイト
3巻 第31話 6 20  
3巻 第32話 6 20 中学放課後
3巻 第33話 6 20 高校放課後部活
3巻 第34話 昼~夜 6 20  
3巻 第35話 12:26 6 21  
3巻 第36話 6 21 大学授業終わり
3巻 第37話 6 21 タナベさんの足のケガが「全治一か月」
3巻 第38話 木~金 23:00~翌朝 6 22.23 「落胆くん2」アイデア出し
3巻 第39話 11:10 6 23  
4巻 第40話 午前 6 23  
4巻 第41話 午前 6 23  
4巻 第42話 12:25 6 23 高校お昼休み
4巻 第43話 6 23  
4巻 第44話 6 23  
4巻 第45話 12:35 6 23 中学お昼休み
4巻 第46話 6 23  
4巻 第47話 6 23 タナベさんが「明後日」に週刊CITY発売と発言、週刊CITYは毎週日曜発売?
4巻 第48話 6 23  
4巻 第49話 6 23 小学校放課後
4巻 第50話 6 23  
4巻 第51話 6 23 高校放課後部活動
4巻 第52話 6 23  
4巻 第53話 金~土 昼~翌日昼 6 23.24 エピローグで南雲・にーくら・が学校帰りのまつり・えっちゃんとすれ違う。南雲・にーくらは次の話で「退屈な午後」を過ごすので、まつり・えっちゃんは午前中で学校が終わり帰宅している
5巻 第54話 6 24 タイトルが「退屈な午後」
5巻 第55話 夕~深夜 6 24 鬼カマボコ・轟打ち合わせ。
5巻 第56話 深夜 6 24 雀荘の店員が週刊「CITY」購読
5巻 第57話 土~日 深夜~翌日夜 6 24.25 あらまさんの会社帰り~休日。
5巻 第58話 月? 6 26 大学があるので平日
5巻 第59話 6 26  
5巻 第60話 6 26 第58話の続き
5巻 第61話 6 27 第59話とにーくらの服装が違うので第58話と別日。高校放課後部活動
5巻 第62話 6 28  
5巻 第63話 6 29 高校放課後
5巻 第64話 6 30 中学放課後
5巻 第65話 6 30  
5巻 第66話 午後 7 1 南雲アルバイト、競馬「CITY大賞典」の11レース開催中、ラストに「NEXT SUMMERTIME BLIUES」の記述
6巻 第67話 月~火 昼~翌日昼 7 3.4 中学高校の放課後からスタート
6巻 第68話 7 6 第66話の競馬の馬券をわこが買っている、大安吉日
6巻 第69話 昼~21:00 7 7 南雲アルバイト
6巻 第70話 深夜 7 7  
6巻 第71話 7 8 うみ・そら・良太が家にいるので休日
6巻 第72話 7 8  
6巻 第73話 7 8 タナベさんの足のケガが「明後日」に回復、第37話で語られていた全治1か月の予定より早い治り
6巻 第74話 土~日 昼~翌昼 7 7.8 土曜日にサッカー部活練習、日曜日に練習試合
6巻 第75話 7 9 南雲が大学に向かっている
6巻 第76話 7 9 南雲大学帰り
6巻 第77話 昼~夕 7 14 幕間ページに、「月」~「金」が経過したことを示す描写
6巻 第78話 7 14 中学放課後
6巻 第79話 昼? 7 15 南雲競馬新聞を読む、幕間ページに「NEXT SUMMER VACATION BLUES」の記述
7巻 第80話 7 17 鶴菱・安達太良父・編集長の休日。2018年度の国民の休日「海の日」は7月16日。編集長は「1か月前」からアロハシャツを着ていたとのことなので、第1巻12話の時点でアロハシャツを着ている描写とも矛盾しない
7巻 第81話 7 18 CITY南高校期末テスト
7巻 第82話 7 18 中学放課後、まつりとえっちゃんが「夏の終わり」のお別れに向けての思い出作りを始める
7巻 第83話 7 19 高校サッカー夏のトーナメント、木~金開催の可能性もあり
7巻 第84話 7 19  
7巻 第85話 7 19 モーニング初出時の編集アオリ文では、この話以降「夏休み」に入ると明記
7巻 第86話 深夜 7 19  
7巻 第87話 7 22 南雲アルバイト
7巻 第88話 7 22 前話に引き続き蒸し暑い描写がある、りこが私服のため学校は休み
7巻 第89話 7 22 モンブラン大学が夏休みに入ったことを御婆が発言、南雲が競馬の馬券を買う
7巻 第90話 7 22  
7巻 第91話 7 22  
7巻 第92話 7 22 南雲競馬から帰ってくる、わこの服装が89話と変わっているので別日かも、CITYレース開始前日
7巻 第93話 7 23 轟編集の落胆くん2の打ち合わせに向かう、わこの服装が89話と同じ
8巻 第94話 朝~昼 7 23 CITYレース開幕
8巻 第95話 7 23  
8巻 第96話 7 23  
8巻 第97話 7 23  
8巻 第98話 7 23  
8巻 第99話 7 23  
8巻 第100話 7 23  
8巻 第101話 7 23  
8巻 第102話 7 23  
8巻 第103話 7 23  
8巻 第104話 7 23  
8巻 第105話 7 23  
8巻 第106話 7 23 CITYレース終了
8巻 第107話 7 24 まつりとえっちゃんが優勝賞金を受け取る
             

「あらゐけいいち資料集」に関する遠況報告

 

あらゐけいいち先生の作品が大好きで、同人活動としてあらゐ作品の記録と解説をまとめる作業を続けてきた。

 2018年の2月から延々と文章の作成を続けているわけだから、この原稿に着手し始めてから、そろそろ二年半が経過する計算になる。

 

そしてその間、僕が何を思い浮かべてきたのかといえば、あらゐ先生に興味を持つ何人かの読み手が、自分の原稿を受け止める未来のことばかりであった。

 

それが実現するかどうか、本当のところは誰にもわからない。
不安定な社会情勢であるのだから、めでたく自分が原稿を作り終えたとしても、刊行の目途がつくかもわからない。


しかし、以下の文章においては、未来の不確定な要素について目を瞑っていただき、
僕がいま空想している、都合の良い未来が訪れたものとして、書き出していきたいと思う。


製作者の冥利に尽きる幸福な未来のイメージ、
すなわち僕が刊行した「あらゐけいいち資料集」を、何人かの熱心な読み手が手に取っている光景が実現したものとして、話を進めさせていただきたいと思う。

 

虫の良いことを言うようで申し訳ないが、しばらくの間だけこらえてもらいたい。
というのも、目下のところ僕が興味を持ち、語ることを欲している「夢」は、
複数の読み手に資料集を読んでもらえた幸福な未来をスタート地点にして始まる事柄だからだ。

 

 

 

さて、万事がつつがなく進行して、かねてより空想を続けてきた幸福な未来が訪れたのだとしよう。

 

その次に僕が考えなければならないのは、
「どれぐらいの期間、読み手に資料集が受け入れられる未来が続いてほしいのか」という理想についてである。


たとえば、あらゐ先生に関する資料が一瞬間だけ読み手の好奇心をくすぐり、その後永遠に思い返されなかった場合を思い浮かべてみよう。
確かに僕の望みは叶っている。
だが、僕はそれで本懐を遂げたといえるのだろうか。

 

もちろん、それだけで満足だと考える作者もいるだろう。
移り変わりの早い苛烈な市場の中に作品を手あたり次第投げこんで、一時だけでも大衆に享受されることを望む。

それも創作物の一つの在り方であって、無下にされるいわれはない。

 

しかし僕は、「あらゐけいいち資料集」に寄せられる読みが、数日かそこらで途絶えてほしくないと思った。

 

 

それでは僕は、どれだけの間「あらゐけいいち資料集」が読み継がれてほしいと考えているのだろう。

 

一年? 
いやまだ足りない、
百年だ。

 

僕はいま作っている資料集が、少なくとも、百年間は読み継がれるような原稿として仕上がっていなければならないと考えているのだった。

 

資料集の原稿を書きながら、僕は百年後の未来を思い描く。
自分はもう死んでいるだろうし、あらゐ先生もいないだろう、
初めに「あらゐけいいち資料集」を手に取ったあらゐ先生の読み手も、おそらくはこの文章を読んでいるあなたも、みな寿命を迎えているはずだ。

 

百年後にもまだ人類は生存しているのだろうか、
全滅とまではいかなくとも、戦争や災害に苛まれ、文化を享受できる状態にないのではないか、
文化そのものは存続していたのだとしても、百年後には古典芸能になっているであろう漫画文化は廃れているのではないか、
あらゆるものが様変わりして、誰も何も楽しめなくなっているのではないか、

 

さまざまな問題が頭をよぎり、心配ごとは尽きない。 

だが僕は、やはり無根拠に、百年後の未来にもあらゐ先生の読者がいると強く信じたいと思う。

平成中期から令和の時代を駆け抜けた一人の個性的な漫画家に強く惹かれる、「古典文化」の研究者が一人でも現れている未来を信じたいと思う。

 


まだこの世に生まれていない、しかし百年後には確かに実在しているはずの一人の研究者。
彼ないしは彼女は、『日常』『CITY』そして次なるあらゐの作品に強く魅入られているだろう。

何せあらゐ先生の作品なのだ、未来に生きる人物にも通用する、普遍的な、不思議と心惹かれる箇所があるはずだ。

 

とはいえ、何せ百年前の風俗にしたがって描き出されているので、あらゐ作品を読んでいて、意図を汲み取れない箇所も多いと推定できる。
その研究者はきっと、作品に不思議と魅了されつつも、頭の上に疑問符を浮かべているに違いない。

 

 

そんな研究者が生きる世界に向けて、僕は百年前の過去から、「あらゐけいいち資料集」を送り届けたいと思う。

あらゐけいいち資料集」の記述でもって、作品に隠されていた真意を百年後の研究者に辿らせる。

そして遠い昔に過ぎ去った、漫画文化の最盛期であった21世紀前半という時代に思い至るよう、研究者をみちびくのである。

 

百年後の未来に生きる人に向かって、あらゐ先生の作品についての情報を伝えること。

それが僕が資料集に願いを込めようとしている、「夢」である。

そして、あらゐ作品に魅せられ、人生を捧げている者が果たすべき使命だと、いみじくも考えているのである。

 

 


ここまで文章を読まれたあなたはどう思われているのだろうか。

大言壮語だと笑われているのだろうか。

それとも、遠い未来のことなど分からないと首を振るのだろうか。

 

しかし、だからといって、僕が未来を夢見ることの価値が損なわれるわけではない。

人が取りうる行動の大半は、未来を無根拠に信じることと引き換えにして生み出されるのだから。

 

 

 

あらゐ先生の作品は百年後も誰かが読んでいる、それは間違いない。

だとすれば、そんなあらゐ先生の作品に見合うだけの力強さを、僕は資料集に込めなければならない。

百年後にも続く文体と考察、そして愛。

 

僕にできるのはそれだけだ。

 

百年後に僕を知る者はいないだろう。

いや百年を待たずとも、数十年、数年のうちに僕はいなくなり、やがて忘却されるのかもしれない。

そのことに異存はない。

 

しかし、ひとつだけ願いが叶うのであれば、あらゐ先生の記録と記憶だけは百年後もどこかに遺っていてほしいと思う。

あらゐけいいちという21世紀前半から活躍した作家が存在して、 

あらゐけいいちという作家が好きな読者が存在したことが、

遠い未来において知られることがあれば素晴らしいと思う。

 

そんな夢のような話が地上で実現している様子を思い浮かべながら、僕は今日も遠い未来を手さぐりするようにして原稿をまとめ始める。

 

 

 


先月末に、一年がかりで『日常』の資料をまとめ終えた。
7月20日現在、『CITY』の単行本2巻の原稿を進めているところだ。
なんとか今年中に草稿をまとめ終えて、来年に体裁を整えて刊行できればと思う。